伸びたパーマの根っこから
染め残した白髪が無残に伸びているから。
ああ、あの人は女を止めたのだな。
だから灰色の枯葉模様のぽりえすてるのちぢみのブラウスを着て、
だから丈の短いズボンをはいて
だからくたびれた靴を内股にして、
座っているのだな。
ところが突然、赤子を胸におぶった若い女が
ちょっと離れたところに向こう向きに立ったのに、
無関係のはずの女を止めた人が、
つっと立って行って若い女に席を譲った。
女を止めても、人間を止めてはいない人。
曽野綾子 「自分の始末」より
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伸びたパーマの根っこから
染め残した白髪が無残に伸びているから。
ああ、あの人は女を止めたのだな。
だから灰色の枯葉模様のぽりえすてるのちぢみのブラウスを着て、
だから丈の短いズボンをはいて
だからくたびれた靴を内股にして、
座っているのだな。
ところが突然、赤子を胸におぶった若い女が
ちょっと離れたところに向こう向きに立ったのに、
無関係のはずの女を止めた人が、
つっと立って行って若い女に席を譲った。
女を止めても、人間を止めてはいない人。
曽野綾子 「自分の始末」より