どこからか言葉が 谷川俊太郎 4月

今年ももう春

 今年ももう春だ
 桜が飽きずに咲いている
 旧知の女性が九六歳になった
 まだ口は達者で
 スマホを枕元に置いてる

 気候変動を気にしている
 放射性廃棄物を気にしている
 曾孫の教育も気にしているが
 死のうが朽ちようが
 人にはまだ先があると言っている

 可愛がっていた文鳥が
 鳥籠から空へ家出した時は
 ひとり発泡酒で乾杯していた
 ここ数年句作しているらしいが
 なかなか見せてくれない

 まだ見栄があるらしい