どこからか言葉が いのち  谷川俊太郎

いのち

ある年齢をすぎると
どこも痛くなくても
体がぎこちない
けつまづいて転んでから
それが分かり
体は自分が草木と
同じく枯れてゆくと知る

人間として
社会に参加した
忙しない「時間」は
悠久の自然の「時」に
無条件降伏する
落ち葉とともに
大地に帰りたい
変わらぬ夜空のもと

言語で意味を与えられて
人生は素の生と異なる
己が獣とも魚とも鳥とも違う
生きものなのを
出自を共にしながら
人は誇り
人は恥じる