夏の晴れた日の夕方になると、駒込校舎校門脇の桜の大木の根元をのぞいてみます。蝉の幼虫が地上に出てきて羽化の準備をする様子が見られるからです。蝉は地中で何年も幼虫時代を過ごし、地上に出て羽化をし、成虫になります。中には地上に出た瞬間に鳥などに襲われてしまうものもいます。地中では長い口を木の根に刺し込み、樹液を吸って成長するのですが、モグラなどの天敵にやられてしまうこともあるそうです。
ようやく地上に出て羽化に成功して成虫になり、オスはその喜びを謳歌するように鳴いてメスを呼びます。交尾して産卵するとそれぞれの役目は終わります。生存競争に打ち勝ったものだけが子孫を残せるのです。私達のかたわらではそんな生命の営みが繰り返されています。
これらは自然の摂理ですが、その生命の循環の中に私達人間の暮らしもあることに気づきます。人間は自然界の頂点に立っているように勘違いして、さまざまな科学技術の発達によって自分達の都合のいいように欲望を満たしてきましたが、生命の営みの基本を忘れず謙虚に暮らしていきたいものです。 香川芳子 香川栄養学園学園長