ビックリするほど、子ども達はアンパンマンが大好きだ。未だ片言しか話せない幼児も、目をきらきらとさせながら食い入るようにあの顔を見つめる。やなせたかしさんが生んだ優しいヒーローは、世代を超えて人々に愛され続けている。
砂漠の真ん中で倒れていた旅人や、森で迷った子供に、自分の顔を食べさせる。顔が全部なくなったアンパンマンは、パン作りのおじさんに新しい顔をつくってもらい、再び「おなかのすいたひと」を助けるために空に飛び立つ。
やなせさん生前のインタビューによると、出版直後の反響は芳しくなく「顔を食べさせるなんて残酷だ」「図書館に置くべきではない」と批判され、出版社からも「こんな絵本はもう描かないで下さい」と言われたという。
それでも、子ども達の間でじわじわと支持され、88年のアニメ放送をきっかけに一気に全国の人気者になった。作家として売れる売れないにかかわらず、「どうしてもアンパンマンに託したメッセージを世に残したいとと言う強いメッセージを感じる」とアンパンマンミュージアムの事務局長は言う。
アンパンマンは弱点の多いヒーローだとも言う。顔が欠けたり、水にぬれたりするとすぐに力が出なくなってしまう。「完全無欠ではない存在が、大それた正義でなく、困っている人に手を差し伸べ、分け与えるという身近な正義を実行している。そんな部分が、人々の共感を呼ぶのではないか」とも言っておられる。
漫画家の里中満智子さんは、
やなせさんは何でも本気の人。「子どもだから、こういう表現をしないとわからないだろう」と言う遠慮は一切なくて、作詞した「アンパンマンのマーチ」も「なんのために生まれて なにをして生きるのか」って、すごい歌詞ですよね。むしろ子供が相手だからこそ、ちゃんとしたことを伝えなきゃという思いはいつも感じましたと。
「グロテスクだ」という批判もあったそうですが、やなせさんはめげずに描き続けた。飢えがどんなに辛いか、戦中に自身が体験したからこそ、目の前で飢えている人がいたならば、顔を分け与えるのは当たり前の行為なんだと、信念をもっていらしたと。
アンパンマンは戦いもするが、「分け与える」ことが主になっていると思う。東日本大震災の時、アンパンマンのポスターを、どこでどう使ってもいいからと提供なさって、被災地では「アンパンマンのマーチ」が流れると、子ども達がみんな歌うのを見て、大変な状況の中でも、みんなが助け合い分かち合う。あの時、歌詞の意味を改めて考えさせられました、「分かち合う」ことは、人と人とのつながりの基本と、里中さんはおっしゃっておられます。
不変な人気の、アンパンマンの魅力を垣間見た良い記事に出会い、時代を超えて大切なことは何も変わらないと思うと同時に、子ども達の目はちゃんと見ている、心はちゃんと感じてると、そのことを、周りに居る我々が大事にしなければと思ったことでした。