昨夜思いがけず良い番組に出会いました。
かの有名な天皇陛下の料理番でいらした秋山徳蔵さんの特集です、フランス料理の本でしか存じ上げないフレンチの神様のような方と聞いていました。そのお人となりを知らせる
とても良い番組でした。
そういえば先日まで都内でフレンチレストランをやっていた知り合いのシェフが、フレンチの立派な本にみごとな艶やかな「牛すじの煮込みソース」で参加することになり、秋山さんのお料理が紹介される本にご一緒させていただける光栄と興奮を伺ったばかりでした。それほど日本のフランス料理に秋山徳蔵さんありという方です。50年近くにわたり天皇陛下に、お会いすることなく調理に明け暮れ、毎日おつくりしたお料理の召し上がり具合・お残し具合を綿密に記録しご健康を支える日々だったようです。少しでも陛下が体調芳しくないときには、お野菜たっぷりの私達で言えば「おじや」のようなものをおつくりしてご体調を案じ、ご回復を願い心を尽くされたとのことでした。その職を辞するときだけ陛下に拝謁でき、「長いことご苦労でした、ありがとう」とのお言葉頂戴し御前では深々頭を下げたままでしたが、厨房に戻り号泣する様子にご要職の厳しさと当時の職人ぶりを垣間見ました。フランスのリッツで修行中に日本に呼ばれ、初めて皇居で海外の賓客にエビのビスク(スープ)をお出しすることになり、日本中探し回って大量のザリガニを集め、ホッとしたのも尽かぬ間、樽に入れて保管していたザリガニが、ある朝すべて脱走!暗いところを求めて逃げたとその習性を知り、探し当てて何とか海外からのお客様に上等で本格的なスープがお出しでき、その一皿で日本から世界に秋山徳蔵の名がとどろいた顛末には、当時の日本で、フランス料理の食材の調達はきわめて困難であったことがうかがえました。その秋山さんの言葉
「ものを食うのは魂が食う、真心こもった料理には何とも味がある」でした。
これほどの巨匠が、定年後日本料理やすし職人の門をたたき、修行なさって道を究め
天皇陛下にあげたての天ぷら・握ったなまのお寿司をお届けしたそうです。その際陛下が
「天ぷらというのは熱いね」とおっしゃって差し上げてよかったとお思いになった由。また秋山さんがお寿司の握りを修行中、生のにんじんをシャトー型に切り、握り寿司と同じ大きさにして常に、寝る時までにんじん握ってお休みになり感覚を覚えたとの逸話には頭が下がりました。84歳で引退なさるまでこのような勉強の日々だったようです。
「お料理は、きれいに、丁寧に 真心こめて」とおっしゃる職人魂に満ちたみごとな秋山
徳蔵さんの番組に出会えて私も幸運な晩でした。
今朝は、日本料理が無形文化遺産に登録されるとのことで、菊の井のご主人が誇りをもってお伝えしたいといっておられました。世界中に回転ずしが広まり「なんちゃって和食」も多いと聞きますが、航空便で世界中の食材がすぐに手に入る今日と違って、手に入れることも輸送も文化の違いもあった少し前の時代に、現在の日本の食文化の礎を築いてこられた秋山徳蔵さんのような職人気質にみち、心ある先人がいらしたことを知って、便利で不自由のない今の暮らしに感謝しつつさまざま思いめぐらしたことでした。受付 佐藤