大好きな指揮者・佐渡裕さんが、昨年ベルリンフィルで初めて指揮をした時のドキュメン
タリー番組の中でしみじみ語っていました。
「つまらない音楽をしたいと思ってる人はいない。ここが指揮者のよりどころね。命令
では動かない。自分の意志でやりたいと導くことが指揮者の極意かな?」
心に響いた言葉でした。
3月11日の震災直後、このベルリンフィルから日本に向かってメッセージを頂戴したこ
とがありました。指揮者のサイモン・ラトルが「皆さんは一人ではありません」と静かに
だけど力強い言葉で勇気と希望を下さいました。
音楽は理由なくハートを伝えるものであるけれど、今日は言葉でお伝えします・・と。
少ないからこその言葉の厚みと重み、心の底から心配下さっているお気持ちおふれるメッ
セージでした。音楽家としてだけでなく深いお気持ちと人となりが深く伝わりました。
佐渡さんがベルリンフィルに招聘され初練習の時、まず最初にこの震災の時に頂いた激励
のメッセージのお礼を、ゆっくりドイツ語で述べた時、メンバーと佐渡さんの心が通じた
ことが静かに伝わってきました。その後の練習風景はなにか国を超え気持ちが通じ合っ
たもののように感じました。ベルリンフィルは、一人一人が本当のプロで、コンサート
マスターが13人もいるそうです。この日のショスタコービッチの5番は、まだ36歳の
樫本大進がコンサートマスターでした。小澤に見いだされ着実に成長された大進がベルリ
ンフィルのコンサートマスターに決まった時、すごいことだなあと思いましたが、いいも
のはいいとはっきり述べ、練習中も金管のトップが、指揮者の佐渡さんに解釈の説明求め
る様子、それに誠実に応える佐渡さん、その答えに納得してその指揮に応えようとする楽
団員の方達にプロの姿勢を見ました。コンサート後のインタビューでも、「あの時もっと
はっきり言ってもよかったんじゃないの」という他のパートの楽団員もいて、本当に開か
れたオケだと思いました。カラヤンという伝説的な指揮者で有名なベルリンフィルだから
こその伝統の上に、この自由な空気の循環。それぞれがプロ中のプロでありながら、意見
を言い合い共感をもって音を響かせあっていく様子にチームという言葉が頭をよぎりまし
た。いつもながら汗だくの佐渡さんのもと、この日のショスタコーヴィチは最高の評判を
とりました。文頭に書いた佐渡さんのコメントが物語っています。