まるで地下鉄「遠回りな神経」の教訓

のんびりいいご気分のお正月、年明けは早口言葉でスタートしました。しかしながら新年早々今年もお餅の事故のニュース、「誤嚥」という言葉も随分知られるようになりました。
そこで誤嚥にも関係する「反回神経」→遠回りな神経!のいいお話し見つけたのでご紹介します

・まるで地下鉄「遠回りな神経」の教訓
私たちはとかく遠回りすることを嫌い、「効率」を重視し追い求めます。地図アプリを駆使し最短ルートを見つけ出そうと躍起になるのが常です。最短距離とは、現在地と目的地を直線で結んだルート。しかしそのような理想的な道路や鉄道は存在しません。とりわけ東京の地下鉄路線は迷路のように複雑で、駅によっては乗り換えに思いのほか時間を有します

こう考えていると脳神経の一種で、喉の筋肉を動かす役割りを担う「反回神経」を思い浮かべるのです。なぜ「反回神経」という名がついたか?それはこの神経が驚くほど遠回りな経路を辿っているからです。
脳と喉は10㌢ほどしか離れていないのに、反回神経はなんと胸部まで伸び、心臓付近の血管を巡ってから、Uターンして喉に戻ってきます、非効率極まりない配線です。なのでこの神経が正常に機能しないと、声が嗄れたり、呼吸困難や誤嚥と言った深刻な症状を引き起こすのです。

謎めいた反回神経の経路の秘密は進化の歴史にあります。
反回神経は、原始的な魚類だった頃に、鰓(えら)を制御するために発達した神経。脳と鰓は、どちらも心臓の近くに位置し、両者を直線で結ぶと、心臓から出た血管の後ろを通ることになります。ところが生物が進化するにつれて、脳は徐々に大きくなり、これに伴い脳と喉は心臓から離れていきました。もはや後の祭り。反回神経の奇妙な経路は、まるで東京の地下鉄の経路のように今日まで受け継がれています、

ヒトの体はまだましで、首の長いキリンでは、更に悲惨なことになっていて、キリンの反回神経の長さはなんと5㍍にも達します。よくキリンが水を飲むシーンで前足を横にぐーっと広げて首を水面に近づけて飲む絵をご覧になった方も居られるでしょう、不自由そうですよね。首の長い恐竜においては事態はより深刻で、反回神経は28㍍だったそうです。想像できませんね・・。

話が飛び過ぎました。そういうわけで喉の筋肉を動かす反回神経の遠回りな経路を知ったら、我々生物は、必ずしも効率的に設計されているわけではないと理解して、うまく機能するようにちょっとの工夫や努力がいるようです
          脳研究者・池谷裕二の「全知全能 連載76」より